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胃潰瘍

胃潰瘍とは

胃潰瘍とは、胃の内側を覆う粘膜が損傷し、深い傷(潰瘍)が形成された状態を指します。この潰瘍は胃酸や消化酵素による刺激を受けて炎症が進行し、治癒しにくくなることがあります。胃潰瘍は、十二指腸潰瘍とともに「消化性潰瘍」というカテゴリーに分類され、これらは消化管の粘膜が胃酸によって損傷を受ける疾患群に含まれます。胃潰瘍は軽度の場合は症状がほとんど現れないこともありますが、重症化すると胃の出血や穿孔(胃壁に穴が開くこと)といった生命を脅かす合併症を引き起こすことがあります。

合併症を予防するための注意点

胃潰瘍は適切な治療で多くの場合、完全に治癒しますが、治療が遅れたり不十分であったりすると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

  1. 1. 胃出血
    潰瘍が深くなって胃壁の血管を侵食すると出血を引き起こします。吐血や黒色便(タール便)が見られる場合は、すぐに医師の診察を受ける必要があります。
  2. 2. 胃穿孔
    潰瘍が進行して胃壁深くまで浸食して胃に穴が開く状態です。急激な腹痛や腹膜炎の症状を引き起こし、緊急手術が必要になる場合があります。
  3. 3. 幽門狭窄
    潰瘍が治癒する際の瘢痕化による変形で胃の出口が狭まり、食物が通過しにくくなる状態です。通過障害による頻繁な嘔吐や食欲不振が症状として現れます。

症状に気付いた際は、早めに消化器内科を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。

胃潰瘍の症状

胃潰瘍の症状は、潰瘍の大きさや場所、進行度によって異なります。初期段階では無症状のこともありますが、症状は軽度のものから命に関わる重篤なものまでさまざまです。症状の程度や頻度には個人差がありますが、みぞおちの痛みや黒色便といった典型的な兆候を見逃さないことが重要です。症状が軽度であっても、進行するリスクを考慮し、早期に消化器内科を受診して適切な治療を受けることが推奨されます。

1. みぞおちの痛み

最も一般的な症状であり、みぞおちや胃の上部に鈍い痛み、焼けるような痛みを感じることがあります。この痛みは、食事を摂ることで一時的に軽減することがありますが、食後数時間後に再び痛みが生じることもあります。

潰瘍が深く進行し、胃の壁を侵食すると、痛みがより鋭く、耐えがたいものになることがあります。また、潰瘍が大きくなると、胃の筋肉や周辺組織にまで影響を及ぼし、慢性的な痛みを引き起こすことがあります。

2. 胸やけや胃もたれ

胃酸が逆流しやすくなるため、胸やけや食べた後の不快感が現れることがあります。

胸やけや胃もたれが頻繁に起こる場合、胃潰瘍が慢性化している可能性があります。また、これらの症状が食後すぐに悪化する場合、胃の出口(幽門)が狭くなっている可能性もあり、追加の検査が必要です。

3. 吐き気や嘔吐

潰瘍による胃の炎症が消化機能を低下させ、食べ物の滞留や吐き気を引き起こします。場合によっては嘔吐物に血液が混ざることがあります。

頻繁な嘔吐により、脱水症状や電解質異常が引き起こされることがあります。また、嘔吐を繰り返すことで胃の圧力が高まり、潰瘍が悪化する可能性があります。

4. 黒色便(タール便)

潰瘍が出血を伴う場合、血液が胃酸と混ざって消化されるため、便が黒色になります。黒色便が見られる場合、潰瘍が深刻な出血を伴っている可能性があります。この状態を放置すると貧血を引き起こし、倦怠感やめまい、さらにはショック症状に至ることもあります。

5.その他の症状

胃潰瘍の症状には、以下のようなものも含まれます.

  • 食欲不振:胃の不快感や痛みから食事を避けるようになり、食欲が減退します。
  • 体重減少:長期間にわたって食事量が減ることで体重が減少することがあります。
  • 全身のだるさ:慢性的な出血や消化不良により、エネルギー不足や貧血が起こり、全身的な疲労感を感じることがあります。

胃潰瘍の原因

胃潰瘍は、胃粘膜を保護する「防御因子」と、胃酸やペプシン(消化酵素)のように粘膜を攻撃する「攻撃因子」のバランスが崩れることで発生します。このバランスを乱す原因には、以下のようなものがあります。

1. ヘリコバクター・ピロリ菌感染

ピロリ菌感染は胃潰瘍の最大の原因の一つであり、胃潰瘍患者の70~90%で確認されています。ピロリ菌は胃粘膜の中に侵入し、毒素を放出することで炎症を引き起こし、粘膜の防御機能を低下させます。また、ピロリ菌は胃酸を中和する「ウレアーゼ」という酵素を分泌し、胃内の環境を自分に有利に変えるため、感染が長期化します。この持続的な感染により胃粘膜が損傷し、潰瘍が発生します。

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2. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDsは、痛み止めや抗炎症薬として広く使用されていますが、これらの薬は胃粘膜を保護する役割を果たすプロスタグランジンの生成を抑制します。その結果、胃粘膜の防御機能が低下し、胃酸やペプシンの攻撃を受けやすくなります。

3. ストレス

精神的ストレスが胃潰瘍を直接引き起こすという科学的証拠は限定的ですが、強いストレスを受けると胃酸分泌が増加し、胃粘膜の血流が低下するため、潰瘍の発生リスクが高まります。また、大けがや手術後のような身体的ストレスは、胃粘膜を傷つける原因になることがあります(ストレス性潰瘍)。

4. 喫煙と飲酒

喫煙は胃粘膜の血流を減少させ、修復能力を低下させます。また、飲酒はアルコールが胃粘膜を直接刺激し、炎症や潰瘍を引き起こすことがあります。これらの要因は胃潰瘍の発症リスクを高めるだけでなく、治癒を遅らせる可能性があります。

5. その他の原因

食生活や生活習慣も関与します。例えば、辛い食べ物や過度のカフェイン摂取、食事時間の不規則さが胃に負担をかけ、潰瘍を悪化させることがあります。また、遺伝的な要因が関与する場合もあります。

胃潰瘍の検査診断方法

胃潰瘍を診断するためには、患者さんの症状を確認するだけでなく、適切な検査を行うことが必要です。その中でも、内視鏡検査、ピロリ菌検査、画像診断の3つは非常に重要です。

胃潰瘍の診断では、患者さんの年齢や性別、症状の詳細、薬剤使用歴、喫煙や飲酒の習慣なども考慮されます。特に、ピロリ菌感染のリスクが高い患者やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を使用している患者さんでは、これらの検査が推奨されます。また、潰瘍が出血や穿孔を伴う場合、迅速な診断と治療が求められるため、内視鏡検査が緊急で行われることもあります。

これらの検査を組み合わせることで、胃潰瘍の正確な診断が可能となり、最適な治療方針を立てることができます。早期の診断と治療は、胃潰瘍による合併症を防ぎ、患者さんの健康を守るために欠かせないプロセスです。診断に基づいて適切な治療を受けることで、胃潰瘍は多くの場合、完全に治癒することが期待できます。

内視鏡検査(胃カメラ)

内視鏡検査(胃カメラ)は、胃潰瘍の診断において最も正確で信頼性の高い方法です。この検査では、細いカメラ付きのチューブを口や鼻から挿入し、食道、胃、十二指腸の内側を直接観察します。内視鏡検査では、胃潰瘍があるかどうかだけでなく、その位置や大きさ、形状、出血の有無、さらに潰瘍の深さまで詳細に確認することが可能です。また、内視鏡検査中に組織を採取(生検)することで、ピロリ菌感染の有無や潰瘍が悪性腫瘍(胃がん)でないかを確認することもできます。これにより、治療方針を的確に決定できるため、胃潰瘍の診断には欠かせない検査と言えます。

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ピロリ菌検査

ピロリ菌検査は、胃潰瘍の原因を特定するために重要な役割を果たします。ピロリ菌は胃潰瘍の主要な原因の一つであり、その感染の有無を確認することが治療の出発点となります。

ピロリ菌検査にはいくつかの方法があります。例えば、呼気検査では、患者さんが専用の薬を服用した後に吐いた息を採取し、ピロリ菌が生成するアンモニアを検出します。この方法は非侵襲的で簡単に行えるため、患者さんへの負担が少ない特徴があります。便検査では便中のピロリ菌抗原を調べることで感染の有無を高精度で確認できます。また、血液検査ではピロリ菌に対する抗体を測定しますが、これまでの感染の有無を調べるのに有用です。しかし、ピロリ抗体測定は過去の感染も反映するため、現在の感染状況を直接示すものではありません。内視鏡検査で採取した胃粘膜を用いて行う迅速ウレアーゼ試験も、高感度でピロリ菌の存在を確認できる手法の一つです。

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画像診断

画像診断は内視鏡検査の補助的な役割を果たします。X線検査やバリウム造影検査では、胃の形状や粘膜の状態を確認できます。特に、バリウム造影検査では胃潰瘍がある場合、粘膜の欠損部分がバリウムによってはっきりと映し出されます。このような検査は、内視鏡検査が困難な場合や、広範囲に胃の状態を確認する必要がある場合に用いられます。ただし、診断の精度は内視鏡検査に劣るため、主に補助的な手段として位置付けられます。

胃潰瘍の治療・予防方法

胃潰瘍は、適切な治療を受けなければ出血や穿孔といった重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期診断と治療が不可欠です。治療は原因に応じて行われ、主にピロリ菌の除菌療法、薬物療法、生活習慣の改善が中心となります。それぞれの治療法について具体的に解説します。

1. ピロリ菌除菌療法

胃潰瘍の患者さんの多くはピロリ菌に感染しており、この菌を除去することで再発のリスクを大幅に低減できます。ピロリ菌除菌療法は、抗生物質2種類(通常アモキシシリンとクラリスロマイシン)と制酸剤(プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB))を組み合わせて7~14日間服用する治療法です。

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2. 薬物療法

胃潰瘍そのものの治癒や症状の緩和を目的とした薬物療法は、以下の3つの薬剤を使用します。

  1. 1. プロトンポンプ阻害薬(PPI)
    ・作用機序:胃壁細胞にあるプロトンポンプを阻害し、胃酸の分泌を強力に抑えます。これにより、潰瘍部位が胃酸の刺激を受けず、自然治癒が促進されます。
    ・主な薬剤:オメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾールなど。
    ・使用期間:通常4~8週間服用しますが、症状が重い場合はそれ以上の期間が必要な場合もあります。
  2. 2. カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB))
    ・作用機序:胃壁細胞にあるプロトンポンプをPPIよりも強力に、長時間にわたり抑えることで強力な胃酸分泌の抑制効果が得られます。PPIよりも効果の個人差が少ないです。
    ・主な薬剤:ボノプラザン。
    ・使用期間: PPIと同様に通常は4~8週服用し、症状が継続する場合はそれ以上の期間服用することもあります。
  3. 3. ヒスタミンH2受容体拮抗薬
    ・作用機序:ヒスタミンが胃酸分泌を刺激する作用を阻害します。PPIほど強力ではありませんが、胃酸分泌を抑える効果があります。
    ・主な薬剤:ラニチジン、ファモチジンなど。
    ・使用状況:PPIが利用できない場合や軽度の症状に用いられることが多いです。
  4. 4. 粘膜保護薬
    ・作用機序:胃粘膜を直接覆い、胃酸やペプシンから粘膜を保護します。一部の薬剤は粘膜の修復を促進する作用もあります。
    ・主な薬剤:スクラルファート、レバミピドなど。
    ・適応:特に潰瘍部位の治癒を促進するために補助的に使用されます。

3. 生活習慣の改善

胃潰瘍の治療において、薬物療法だけでなく生活習慣の改善も重要な役割を果たします。生活習慣を見直すことで、治療効果を高め、再発を防ぐことが可能です。

  • 禁煙
    喫煙は胃粘膜の血流を低下させ、粘膜の修復を妨げます。また、胃酸分泌を促進するため、潰瘍の治癒を遅らせる可能性があります。禁煙は治療の成功に欠かせません。
  • 飲酒の制限
    アルコールは胃粘膜を直接刺激し、炎症を悪化させる要因となります。治療中は飲酒を控えることが推奨されます。
  • バランスの取れた食事
    脂肪分や刺激の強い食品(辛いもの、酸味の強い食品)を避け、消化に優しい食事を心がけます。また、食事の時間を規則的にし、夜遅い食事を控えることで胃の負担を軽減できます。
  • ストレス管理
    ストレスは胃酸分泌を増加させ、胃粘膜を傷つける原因となります。適度な運動や趣味の時間を取り入れることで、ストレスを軽減する工夫が必要です。

胃潰瘍の治療では、原因に応じたアプローチが重要です。ピロリ菌感染が確認された場合は除菌療法を行い、再発を防ぐことが可能です。さらに、薬物療法によって潰瘍の治癒を促進し、生活習慣の改善を並行することで治療効果を最大化します。早期の治療と適切な予防策を講じることで、胃潰瘍は完全に治癒する病気です。症状に気付いた際は、早めに消化器内科を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。