炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、腸管に慢性的な炎症を引き起こす自己免疫性疾患の総称です。代表的な疾患として、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis, UC)とクローン病(Crohn's Disease, CD)があります。IBDは再燃と寛解を繰り返す病態で、治療を行っても完全に治癒することが難しい疾患です。
潰瘍性大腸炎とクローン病における共通の予防法は、生活習慣の改善やストレス管理、バランスの良い食事といった、健康的なライフスタイルに基づいています。これらの対策は炎症を抑え、再燃のリスクを減らすために重要です。各患者の症状や状態に応じて、医師や栄養士と相談しながら適切な予防法を取り入れることが推奨されます。
炎症性腸疾患(IBD)
の特徴
- 慢性の炎症性疾患
IBDでは免疫系の異常が腸管内の炎症を引き起こします。この炎症は自然に治まることがなく、適切な治療を行わない場合、症状が進行することがあります。 - 再燃と寛解を繰り返す
IBDは症状が悪化する「再燃期」と、比較的症状が落ち着く「寛解期」を繰り返します。治療の目的は再燃を抑え、寛解状態を維持することです。 - 消化管外の合併症
腸管の炎症にとどまらず、関節炎、皮膚病変(結節性紅斑など)、目の炎症(ブドウ膜炎)など、腸管外症状を引き起こすことがあります。 - 若年層での発症が多い
IBDは10代後半から30代に発症することが多く、活動的な年代の生活に大きな影響を及ぼします。ただし、最近では中高年での発症も増加しており、あらゆる年齢で発症する可能性があります。
炎症性腸疾患(IBD)
の原因
IBDは、遺伝的要因を背景に、環境要因、腸内細菌叢の異常、免疫系の過剰反応が複雑に絡み合って発症する多因子性疾患です。それぞれの要因が単独で疾患を引き起こすわけではなく、複数の要素が相互に影響し合うことで、炎症性腸疾患が発症すると考えられています。このため、治療では原因の一つに限定するのではなく、免疫抑制、腸内細菌の調整、生活環境の改善といった多角的なアプローチが求められます。
- 遺伝的要因
まず、遺伝的要因が重要な役割を果たしていることが知られています。IBDは家族内での発症が多い疾患であり、遺伝的素因を持つ人々が発症しやすいことが報告されています。例えば、クローン病ではNOD2/CARD15遺伝子の変異が確認されており、この遺伝子は腸内細菌に対する免疫応答を調節する重要な役割を担っています(主に西洋人のクローン病患者でみられる特徴で、日本人を含むアジア人では稀な変異です)。また、IBD患者の親族は、一般の人々と比べて発症リスクが高い傾向があり、遺伝子レベルでの影響が強く示唆されています。 - 環境要因
次に、環境要因もIBDの発症に深く関与しています。食生活の変化はその代表的な例であり、西洋型の高脂肪・高糖質の食事が腸内細菌叢のバランスを崩し、炎症を引き起こしやすくすることが示唆されています。また、低食物繊維の摂取が腸内環境に悪影響を与え、IBDのリスクを高める可能性もあります。喫煙については、クローン病では発症リスクや症状の重症化に寄与する一方で、潰瘍性大腸炎では喫煙が保護的に作用することがあるという興味深い特徴が確認されています。都市化が進む地域ではIBDの発症率が高くなる傾向があり、これは衛生状態の向上や生活様式の変化が腸内細菌叢に影響を与えている可能性があります。 - 腸内細菌叢の異常
腸内細菌叢の異常も、IBDの発症において重要な要因です。健康な腸内では、腸内細菌と免疫系が適切なバランスを保つことで炎症が抑えられています。しかし、IBD患者さんでは腸内細菌叢の多様性が低下し、一部の病原性細菌が増加していることが報告されています。このような腸内細菌の異常が免疫系を過剰に刺激し、慢性的な炎症を引き起こすメカニズムが示唆されています。特に潰瘍性大腸炎ではプロテオバクテリアの増加が関連し、クローン病では抗炎症作用を持つ細菌が減少していることが特徴的です。 - 免疫系の異常
免疫系の異常もIBDの発症に深く関与しています。IBDは自己免疫疾患の一種であり、腸内細菌や自己の腸管組織に対する免疫応答が過剰に働くことが炎症の主な原因とされています。免疫系が過剰反応を起こすと、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-12、IL-23など)が過剰に分泌され、腸管内の炎症が持続します。さらに、腸管バリアの破綻がこれらの免疫反応を助長し、腸内細菌が腸壁の深部に侵入することで炎症が悪化することもあります。 - 精神的ストレス
精神的ストレスもまた、IBDの症状を悪化させる要因として知られています。ストレスそのものが直接的な原因ではありませんが、免疫系や腸管の運動機能に影響を及ぼし、症状の再燃を引き起こす可能性があります。 - 医原的要因
抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用も腸内細菌叢に影響を与え、IBDのリスクを高める可能性があります。抗生物質は腸内細菌のバランスを崩し、病原性細菌の増殖を助長することがあり、NSAIDsは腸粘膜を損傷し炎症を悪化させることが報告されています。
瘍性大腸炎とクローン病
の違い
潰瘍性大腸炎とクローン病は、どちらも炎症性腸疾患(IBD)に分類される慢性の消化器疾患ですが、いくつかの重要な違いがあります。
特徴 | 潰瘍性大腸炎 | クローン病 |
病変部位 | 大腸のみ | 消化管全体 |
---|---|---|
病変の広がり | 連続的 | スキップ病変 |
炎症の深さ | 粘膜層 | 全層 |
主な合併症 | 大腸がん | 狭窄、瘻孔、痔瘻 |
外科治療の頻度 | 比較的高い | 低いが再手術のリスクあり |
それぞれの特徴は以下をご覧ください。
炎症性腸疾患(IBD)
の予防
潰瘍性大腸炎とクローン病は炎症性腸疾患(IBD)として共通する要素が多く、予防法にも共通点があります。これらの疾患は明確な予防法が確立されているわけではありませんが、症状の悪化や再燃を防ぐために以下のポイントが重要とされています。
1. ストレス管理
ストレスは潰瘍性大腸炎やクローン病の症状を悪化させる要因の一つと考えられています。特に再燃の引き金となる場合があるため、適切なストレス軽減策を取り入れることが重要です。リラクゼーション法や運動、趣味を楽しむ時間を持つことはストレスのコントロールに役立ちます。また、心の負担を軽減するために、心理カウンセリングやサポートグループへの参加も効果的です。
2. 規則正しい生活
潰瘍性大腸炎とクローン病のどちらも、規則正しい生活リズムを保つことが推奨されます。特に十分な睡眠と休息を確保することは、体調を整え、炎症の悪化を防ぐ基本です。不規則な生活や過労は、免疫系に負担をかける可能性があるため避けるべきです。また、食事や運動のタイミングを一定に保つことも、体内のリズムを整え、腸の健康維持に役立ちます。
3. バランスの良い食事
食事は炎症性腸疾患において重要な役割を果たします。特定の食品が直接疾患を予防するわけではありませんが、栄養バランスの取れた食事を摂ることが腸内環境の改善に寄与します。高脂肪食や高糖質の食品は腸内細菌叢に悪影響を与える可能性があるため、これらの摂取を控え、野菜、果物、全粒穀物、良質なたんぱく質を中心とした食事が推奨されます。また、個々の疾患や症状に応じて食事内容を調整する必要があり、専門家の指導を受けることが効果的です。
4. 禁煙
喫煙はクローン病のリスクを増加させる主要な因子であり、潰瘍性大腸炎では禁煙後に症状が悪化する場合があるものの、全体的には健康維持のために禁煙が推奨されます。喫煙による腸へのダメージを防ぐため、禁煙は重要な予防策となります。
5. 定期的な医療
フォローアップ
症状の進行や再燃を防ぐために、定期的に医療機関を受診し、炎症の状態をモニタリングすることが必要です。血液検査や便中カルプロテクチン、内視鏡検査を通じて炎症の早期兆候を確認し、適切な治療を継続することが、予防の一環として有効です。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis)は、免疫系の異常により、大腸の粘膜が自己攻撃されることが原因と考えられています。遺伝的素因を持つ人が、腸内細菌叢の乱れや感染症、ストレスなどの環境要因をきっかけに発症するとされています。特に、免疫系の炎症反応が制御できなくなることで、慢性的な炎症と潰瘍形成が進行します。
潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎の症状は、大腸の炎症の広がりや重症度に応じて異なります。主に以下のような症状が見られます。
- 血便
血便は潰瘍性大腸炎の代表的な症状で、炎症による粘膜の破壊が原因です。血液は通常、鮮紅色で便に混ざることが多く、重症例では下血(赤い血液が単独で出ること)に至ることがあります。血液に粘液が混ざることもあり、これが排便時の特徴的な所見です。 - 下痢
頻回の水様性下痢が特徴です。便意を催す回数が1日に10回以上に達することもあります。夜間にも下痢が起こることが多く、睡眠を妨げる原因になります。炎症が直腸に及んでいる場合は、便が溜まる前にトイレに行きたくなる「しぶり腹(テネスムス)」を感じることがあります。 - 腹痛
腹痛の場所や程度は病変の広がりに依存します。直腸やS状結腸に炎症がある場合は下腹部、特に左下腹部に痛みを感じることが多いです。痛みは排便によって一時的に軽減することがありますが、重症例では持続的な激しい痛みを伴うことがあります。 - 発熱
急性期や重症例では発熱が見られることがあります。炎症性サイトカインの放出が原因で、全身の炎症反応を示す徴候とされています。 - 全身倦怠感
慢性的な炎症や下痢による脱水、栄養不良のため、全身の疲労感や倦怠感が強く現れることがあります。特に鉄欠乏性貧血を伴う場合、息切れや動悸も見られることがあります。 - 体重減少
長期間の下痢や食欲不振により体重減少が進行します。栄養吸収が阻害されるわけではありませんが、慢性の炎症がエネルギー消費を増加させるため、体重減少を引き起こします。
潰瘍性大腸炎の
検査・診断方法
潰瘍性大腸炎の診断には、症状、内視鏡所見、病理組織所見、血液検査、便検査、画像検査などを総合的に評価します。他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、クローン病など)との鑑別が必要であり、特にクローン病との違いを明確にすることが重要です。また、診断後は病変の範囲や炎症の活動性を定期的に評価し、治療計画を調整する必要があります。
大腸内視鏡検査
潰瘍性大腸炎の診断において最も重要な検査です。内視鏡を使用して大腸全体を観察し、炎症の広がりや粘膜の状態を確認します。そして、びらんや潰瘍、血管透見像の消失といった特徴的な所見を評価します。また、内視鏡下での生検により、慢性炎症や杯細胞の減少、陰窩膿瘍の形成といった組織学的特徴を確認します。
血液検査・便検査
血液検査では貧血や炎症マーカー(CRP、赤沈)を測定します。便潜血検査では、便に血液が含まれているかを調べます。便中カルプロテクチンの増加が腸内の炎症を示す補助的指標となります。潰瘍性大腸炎では陽性になることが多く、特に血便が主訴の場合には重要な検査です。
画像検査
X線検査(単純腹部撮影)
重症例や合併症を疑う場合に行われます。中毒性巨大結腸症の評価では、拡張した大腸の確認が重要です。
CT検査
炎症の広がりや腸管外の合併症(膿瘍や穿孔)の評価に有用です。また、潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別にも役立つことがあります。
MRI検査
主に肛門周囲病変や小腸病変が疑われる場合に行いますが、潰瘍性大腸炎の診断においては使用頻度は低いです。
潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎の治療は患者さんの状態に応じて段階的に行われます。
まず薬物療法を基本とし、症状の寛解を目指します。5-ASA製剤(メサラジン)は初期治療の中心であり、炎症を抑える効果があります。
軽症から中等症の場合、まず5-ASA製剤を試み、効果が不十分な場合にはステロイドや免疫調節薬を追加します。
中等症から重症の患者さんに対しては、5-ASA製剤の失敗後に段階的に治療を強化するのではなく、早期から高度な治療法や免疫調節薬の使用を推奨しています。
重症例ではステロイドを用いて炎症を急速に抑えますが、長期使用は副作用リスクが高いため、免疫調節薬や生物学的製剤を併用することが一般的です。日本では2024年12月に新しい経口薬であるゼポジア(オザニモド)が承認され、中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者に対する新たな治療選択肢となっています。
潰瘍性大腸炎の治療は多岐にわたりますが、適切な治療と生活指導を組み合わせることで、再燃を防ぎ、患者さんの生活の質を向上させることが可能です。治療計画は患者さんごとに異なるため、定期的な医師との相談が不可欠です。
潰瘍性大腸炎の予防法
腸内環境を整えることが重要で、腸内細菌のバランスを改善する生活習慣が推奨されます。食生活では、高脂肪や高カロリーの食事を避け、胃腸への刺激が強い食品の摂取を控えることが大切です。また、アルコールやカフェインの摂取は腸への負担を増やす可能性があるため、控えめにすることが望ましいです。
そのほか、以下の内容もご参考ください。
クローン病
クローン病(Crohn's Disease)は、消化管全体に炎症を引き起こすことが可能な疾患で、特に回腸末端や大腸に病変が集中します。免疫系の異常が主な要因とされ、腸管バリア機能の破綻が重要な役割を果たします。潰瘍性大腸炎と異なり、炎症が腸壁の全層に及ぶため、狭窄や瘻孔が生じやすいことが特徴です。
クローン病の症状
クローン病の症状は、消化管のどの部分が病変に関与しているかによって異なります。
- 腹痛
腹痛はクローン病の最も一般的な症状です。痛みは右下腹部に生じることが多く、しばしば虫垂炎と間違えられることがあります。狭窄による腸閉塞が原因の場合は、痛みが波のように強まる「疝痛」を伴います。 - 下痢
持続的な水様性下痢が一般的で、1日3〜6回以上の頻度で起こります。潰瘍性大腸炎とは異なり、血便はあまり見られませんが、腸管の炎症が進むと血液が混ざることもあります。 - 栄養障害
小腸に病変がある場合、栄養の吸収障害が起こりやすく、ビタミンB12や鉄、カルシウム、亜鉛の欠乏が問題となります。栄養不足が進行すると体重減少だけでなく、筋力低下や免疫機能の低下が生じます。 - 発熱と全身症状
炎症が活発な場合、発熱や強い倦怠感を伴うことがあります。炎症が慢性的に続くと、関節痛や皮疹などの腸管外症状が現れることもあります。 - 瘻孔(ろうこう)と膿瘍
腸管の全層に炎症が及ぶため、周囲の臓器や皮膚と異常な通路(瘻孔)が形成されることがあります。瘻孔が肛門周囲に形成されると、痔瘻(膿がたまる病変)や膿漏が起こり、激しい疼痛や排便障害を引き起こします。 - 肛門病変
クローン病では、肛門周囲の病変(痔瘻、裂肛、潰瘍)が約20〜30%の患者で見られます。これらの病変は、慢性的な炎症によるものです。 - 腸閉塞の症状
長期の炎症や瘢痕形成によって腸管が狭窄し、腸閉塞の症状が出ることがあります。腸閉塞時には激しい腹痛、吐き気、嘔吐、腹部膨満感が見られます。
クローン病の
検査・診断方法
クローン病の診断は、症状だけで確定することは難しく、内視鏡、画像診断、血液検査、病理検査を組み合わせた多角的な評価が必要です。患者さんの症状や病歴を確認したうえで、炎症の範囲や活動性、合併症の有無を正確に把握し、適切な治療方針を立てることが可能になります。また、他の疾患(潰瘍性大腸炎、感染性腸炎など)との鑑別が必要であり、多角的なアプローチが求められます。
内視鏡検査
内視鏡はクローン病の診断において最も重要な検査です。
大腸内視鏡検査
大腸と回腸末端(小腸の最後の部分)を直接観察し、炎症や潰瘍の有無を確認します。特徴的な所見としては、スキップ病変(正常な粘膜と病変部が交互に現れる)、縦走潰瘍(線状の深い潰瘍)、敷石像(粘膜が盛り上がった病変)があげられます。内視鏡下で組織を採取し、病理検査を行います。
※非乾酪性肉芽腫(腸壁に形成される肉芽腫)が確認されるとクローン病の診断に有力ですが、必ずしも全例で認められるわけではありません。
小腸内視鏡検査
大腸内視鏡では観察できない小腸の病変を確認するために、バルーン内視鏡やカプセル内視鏡を使用します。小腸全体を観察し、潰瘍や狭窄、スキップ病変を確認します。小腸の深部まで詳細に調べることで、クローン病の範囲を特定します。
画像検査
画像診断は腸管外の合併症(瘻孔や膿瘍)や腸壁の状態を評価するのに有用です。
CT
CT腸管造影(CTE)が用いられ、腸壁の肥厚、狭窄、瘻孔、膿瘍を詳細に評価します。急性期や重症例では、腸管の外部の病変(例えば膿瘍)が確認されることがあります。
MRI
MR腸管造影(MRE)は、小腸や腸管周囲の状態を評価するために使用されます。放射線被曝がないため、若年患者や繰り返し検査が必要な場合に適しています。瘻孔、狭窄、腸管の炎症活動性を評価するのに有効です。
超音波検査
腸管の肥厚や膿瘍の確認に利用されます。非侵襲的で簡便ですが、診断精度はCTやMRIに劣る場合があります。
血液検査・便潜血
クローン病の診断において、血液検査は炎症の活動性や全身状態を評価するために非常に重要です。炎症マーカーであるCRP(C反応性タンパク)やESR(赤沈速度)の値が上昇している場合、腸管内で炎症が進行している可能性が高いと考えられます。これらの値は炎症の強さに比例して高くなるため、病状の把握に役立ちます。また、貧血の有無も重要な指標です。これは炎症や栄養不良、慢性的な腸管出血による鉄欠乏性貧血や慢性疾患性貧血として現れることが多く、患者の状態を詳しく評価する必要があります。さらに、アルブミン値の低下は栄養状態の悪化や炎症の重症化を示すサインとなります。白血球数や血小板数の増加も炎症の活動性が高い場合に見られるため、これらを総合的に判断することが求められます。
便検査では、腸管内の炎症や出血を評価します。便潜血検査により、血便が明らかでなくても微量の出血を検出することが可能です。特にクローン病では、血便が少ない場合でも潜血反応が陽性となるケースが多いです。また、便中カルプロテクチンは腸管内の炎症活動性を反映する非常に有用な指標であり、非侵襲的に炎症の状態を把握できます。この検査は病状のモニタリングや再燃の予測に役立ち、患者さんの治療計画を立てる際に重要な役割を果たします。
腸生検
腸生検は、内視鏡検査中に採取した粘膜組織を用いて病理診断を行う検査で、クローン病の診断を確定する上で非常に重要な役割を果たします。この検査では、腸壁全層にわたる炎症や特有の組織学的変化を観察することが可能です。クローン病では、腸壁全体に慢性的な炎症が広がり、非乾酪性肉芽腫と呼ばれる特徴的な病理学的所見が認められる場合があります。この肉芽腫はクローン病の診断に非常に有力な証拠となりますが、全ての患者で確認されるわけではなく、肉芽腫が見られないケースも少なくありません。
そのため、腸生検で得られた組織学的な情報は、他の診断要素(例えば、内視鏡所見や画像検査結果)と組み合わせて評価する必要があります。また、病変が腸壁全層に及ぶことや炎症が断続的に分布する「スキップ病変」の特徴が、潰瘍性大腸炎などの他の炎症性腸疾患との鑑別に役立ちます。腸生検は、病変の広がりや炎症の深さ、病理学的特徴を明確にするために欠かせない検査です。
クローン病の治療
クローン病の治療は、症状や病状に応じて段階的に行われます。治療の基本は、炎症のコントロールと合併症の予防です。
薬物療法がクローン病治療の中心です。軽症では5-ASA製剤(メサラジン)が使用され、腸管の炎症を抑えますが、効果が不十分な場合は他の治療が必要です。急性期や中等症以上では、ステロイドを使用して炎症を迅速に抑えますが、副作用があるため長期使用は避け、免疫調節薬(アザチオプリンなど)に切り替えます。重症例では生物学的製剤(抗TNF-α抗体や抗IL-12/23抗体など)が効果的で、炎症を強力に抑える一方で、感染症リスクがあるため注意が必要です。また、瘻孔や膿瘍がある場合には、抗菌薬が補助的に使用されます。
栄養療法は、腸管を休ませることで炎症を抑える非薬物療法です。成分栄養剤(エレンタール)は、腸への負担を軽減しながら必要な栄養を補給できるため、軽症から中等症の患者に広く用いられます。また、低残渣食(繊維質を控えた消化に良い食事)を摂ることで、症状の緩和が期待されます。
薬物療法や栄養療法が効果を示さない場合、または狭窄や瘻孔、膿瘍、腸閉塞などの合併症が生じた場合には外科治療が検討されます。手術は、狭窄部や病変部を切除する腸切除術や、異常な通路を修復する瘻孔修復術が行われます。ただし、クローン病は再発しやすいため、腸管を可能な限り温存することが求められます。手術後も薬物療法による再発予防が必要です。
クローン病は治癒が難しい慢性疾患ですが、適切な治療と管理を行うことで、症状をコントロールし、生活の質を向上させることが可能です。治療は患者さんそれぞれで異なるため、患者さんと医療従事者が協力して最適な治療計画を立てることが重要です。
クローン病の予防
クローン病では、喫煙が発症リスクを大幅に高めるため、禁煙が最も重要な予防策の一つです。さらに、動物性脂肪の摂取を控えることで腸への炎症リスクを軽減できます。症状がある場合には、腸管への負担を減らすために、繊維質の少ない低残渣食が推奨されます。
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