慢性胃炎とは
慢性胃炎とは、胃の粘膜が長期間にわたり炎症を起こす病気です。この状態は、胃粘膜の萎縮(薄くなること)や胃酸の分泌低下が特徴で、適切な治療を行わないと萎縮性胃炎に進行し、胃がんのリスクが高まります。
慢性胃炎の分類
慢性胃炎はその進行度や状態に応じて、いくつかの種類に分類されます。それぞれの特徴は以下の通りです。
- 表層性胃炎
表層性胃炎は、胃粘膜の最も外側の層に炎症が限定されている状態です。この段階では粘膜の深部に影響が及ばず、症状も比較的軽いことが多いのが特徴です。日常生活では、食べ過ぎや脂っこい食事、ストレスなどが誘因となることが多く、原因を取り除くことで症状が改善します。 - 萎縮性胃炎
長期間にわたる炎症の結果、胃粘膜が薄くなる状態です。胃酸や消化酵素の分泌量が減少し、胃の防御機能が弱まります。この状態では、粘膜が薄くなるにつれて胃がんリスクが高まることが知られています。萎縮の進行度合いによっては、胃粘膜が腸の細胞に似た形に変化(腸上皮化生)することがあります。 - 鳥肌胃炎(化生性胃炎)
鳥肌胃炎とは、胃粘膜が腸粘膜に似た構造に変化する腸上皮化生を特徴とする状態です。内視鏡で観察すると、粘膜が小さな凹凸で覆われ、鳥肌のような見た目になるためこの名前が付けられました。この状態は胃がんの前段階とされ、特にピロリ菌感染がある場合には注意が必要です。 - 肥厚性胃炎
胃粘膜が分厚くなり、胃壁全体が硬くなる状態です。これは胃粘膜が炎症に対して防御反応を示している結果ですが、粘膜の伸縮性が低下し、胃の動きが悪くなります。この状態では、胃潰瘍や胃がんに進行するリスクが高まることがあります。 - 自己免疫性胃炎(A型胃炎)
自分の免疫システムが胃粘膜を攻撃することで炎症が生じる稀な病気です。壁細胞が破壊されるため、胃酸や内因子(ビタミンB12の吸収に必要なタンパク質)の分泌が低下します。結果として、ビタミンB12欠乏性貧血(悪性貧血)が引き起こされ、疲労感や神経障害などの症状を伴うことがあります。
慢性胃炎の症状
慢性胃炎の症状は多岐にわたり、進行度や個人差によって異なります。それぞれの症状は以下の通りです。
- みぞおちの痛みや不快感
みぞおち部分に鈍い痛みや圧迫感を感じることがあります。食事の前後に症状が現れることが多く、特に脂肪分の多い食事や、酸っぱいもの、辛いものなどの刺激物を摂取した後に症状が悪化することがあります。この痛みは数分で収まる場合もあれば、数時間続くこともあります。 - 胃もたれ
食後に胃が重く感じ、消化が進まないような不快感が続きます。特に揚げ物やクリーム系の料理など脂肪分の多い食事を摂取した場合に、胃もたれが顕著になることがあります。この状態が慢性化すると、食事そのものが負担に感じられるようになり、食事量が減少する場合もあります。 - 胸やけ
胃酸が食道に逆流し、胸や喉に灼熱感を覚える症状です。特に横になるときや寝る前に強く感じることが多く、逆流性食道炎を併発しているケースも少なくありません。胸やけを頻繁に感じる場合は、胃酸過多が疑われ、生活習慣の見直しが求められます。 - 吐き気や食欲不振
胃の炎症により消化能力が低下し、食事に対する興味が失われることがあります。特に朝起きた時にむかつき感を覚えることが多く、場合によっては嘔吐に至ることもあります。長期間続く場合は栄養状態が悪化する可能性があるため、早めの対処が必要です。 - げっぷや腹部膨満感
胃の動きが低下し、食べ物や空気が胃の中に溜まりやすくなることで、頻繁にげっぷが出るようになります。さらに、胃内に溜まったガスによってお腹が張ったように感じることがあります。この症状が続くと食事量が減り、体重減少を引き起こすこともあります。 - 無症状
慢性胃炎は症状がない場合も多く、健康診断や内視鏡検査で偶然発見されるケースがあります。症状がないからといって安心せず、定期的な検査で胃粘膜の状態を確認することが重要です。
慢性胃炎の原因
慢性胃炎の原因は複数あります。
- ピロリ菌感染
日本での慢性胃炎の原因の約80%はピロリ菌感染によるものとされています。この菌は胃粘膜に感染し、胃酸の中でも生存するために特殊な酵素を分泌します。この酵素が胃粘膜を破壊し、慢性的な炎症を引き起こします。ピロリ菌は幼少期に感染することが多く、家族内での接触や不衛生な水・食物を介して感染するケースが多いです。 - 生活習慣
暴飲暴食や不規則な食生活が胃に負担をかけます。一度に大量の食事を摂取することや、深夜に食事をすることが胃の回復時間を奪い、炎症を悪化させる原因になります。また、喫煙や飲酒は胃粘膜を直接刺激し、胃酸分泌を増加させることで炎症を悪化させます。 - 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用
鎮痛剤や解熱剤として広く使用されるこれらの薬剤は、胃粘膜を保護する物質であるプロスタグランジンの生成を抑制します。その結果、胃粘膜が弱くなり、炎症や潰瘍を引き起こすことがあります。 - 自己免疫疾患
自己免疫性胃炎は、免疫システムが自分の胃の細胞を攻撃することで炎症が生じる病気です。この状態では、胃酸分泌が低下し、ビタミンB12の吸収が妨げられるため、貧血や神経症状を引き起こします。
慢性胃炎の検査・診断方法
慢性胃炎を正確に診断するためには、以下の検査が行われます。それぞれの検査方法について詳しく説明します。
1.胃カメラ(内視鏡検査)
胃カメラは、胃の内部を直接観察する最も有効な検査です。胃粘膜の状態や炎症の程度、萎縮や腸上皮化生(腸の細胞に似た変化)の有無を確認します。必要に応じて、粘膜の一部を採取する生検を行い、病理検査でさらに詳しく調べます。
特に以下のポイントが観察されます:
- 粘膜の色や厚み
- 萎縮の進行具合(血管の透見性が高い場合は萎縮が進んでいる可能性があります)
- 鳥肌胃炎や腸上皮化生の有無
- 潜在的な胃潰瘍や早期胃がんの兆候
胃カメラ検査は萎縮性胃炎や鳥肌胃炎の診断に不可欠であり、症状が軽度でも定期的に行うことが推奨されます。
2.ピロリ菌検査
ピロリ菌感染が慢性胃炎の主な原因であるため、その有無を確認することが重要です。以下の方法があります:
- 呼気検査:尿素呼気試験という簡単な検査で、ピロリ菌の有無を非侵襲的に調べます。
- 血液検査:ピロリ菌に対する抗体を測定し、感染の有無を確認します。
- 便検査:便中のピロリ菌抗原を調べる方法で、特に有用です。
これらの検査は短時間で結果が得られ、胃カメラを受けることが難しい場合の代替手段としても活用されます。
3.バリウム検査
(胃X線検査)
健康診断で行われることが多い検査で、胃の形状や粘膜の異常を調べます。胃カメラに比べて精度は劣りますが、胃の全体像を把握するのに役立ちます。
4.血液検査
貧血の有無や炎症反応を調べるための検査です。自己免疫性胃炎が疑われる場合には、ビタミンB12の値や特定の自己抗体(抗壁細胞抗体、抗内因子抗体)を測定します。
慢性胃炎の治療方法
慢性胃炎の治療は、原因と症状に応じて個別に行われます。
1.ピロリ菌除菌治療
ピロリ菌感染が確認された場合、抗生物質と胃酸分泌抑制薬を用いて除菌治療を行います。この治療は、1週間の短期集中型で行われ、成功率は90%以上です。除菌成功により、胃がんのリスクを大幅に低減できるとされています。しかし、完全にリスクがなくなるわけではないため、除菌後も定期的な検査が必要です。
2.胃酸分泌抑制薬の使用
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を強力に抑制する薬で、胃粘膜の炎症を和らげる効果があります。
- H2ブロッカー:胃酸の分泌を抑える薬ですが、PPIに比べて効果はやや穏やかです。軽度の炎症や胸やけの緩和に使用されます。
3.胃粘膜保護薬の使用
胃粘膜のバリア機能を強化し、粘膜の修復を促進する薬です。特にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による胃炎に有効です。
4.生活習慣の改善
- 食生活:刺激の強い食べ物(辛いもの、酸っぱいもの)や脂肪分の多い食事を避けます。また、少量を数回に分けて食べる「分割食」が胃の負担を軽減します。
- 禁煙:タバコに含まれるニコチンは胃酸の分泌を増加させ、胃粘膜を傷つけるため、完全にやめることが推奨されます。
- 節酒:アルコールが胃粘膜を刺激するため、摂取量を減らし、空腹時の飲酒を避けます。週に2日の休肝日を設けることが推奨されます。
5.ビタミンB12補充療法
(自己免疫性胃炎の場合)
自己免疫性胃炎では、ビタミンB12の吸収が妨げられるため、経口摂取または注射による補充が行われます。これにより貧血や神経障害が改善されます。
ピロリ菌除菌後の
経過観察の重要性
ピロリ菌除菌治療が成功した場合でも、以下の理由から定期的な経過観察が必要です。
- 萎縮性胃炎や腸上皮化生は元に戻らない
除菌後も、すでに進行した萎縮性胃炎や腸上皮化生が残っている場合、胃がんのリスクが完全に消えるわけではありません。 - 胃がんの早期発見のための検査
年1回の胃カメラ検査が推奨されます。これにより、新たな病変や胃がんの早期兆候を発見することが可能です。 - 再感染のリスク管理
ピロリ菌の再感染リスクは低いものの、不衛生な水や食物を介して再感染する可能性があります。そのため、衛生的な生活環境を整えることが重要です。
慢性胃炎の予防方法
慢性胃炎の予防には、以下の生活習慣の改善が重要です。
1.ピロリ菌の早期検査と
除菌治療
ピロリ菌感染が確認された場合、早期に除菌治療を行うことで、胃がんや慢性胃炎の進行リスクを大幅に低減できます。特に家族にピロリ菌感染歴や胃がんの既往がある場合は、積極的な検査をお勧めします。
2.食生活の見直し
- 塩分を控える:高塩分食品(漬物、味噌汁、加工食品など)は胃粘膜に負担をかけるため、摂取を控えましょう。
- 規則正しい食事:食事時間を一定に保ち、1回の食事量を適度にすることで、胃への負担を減らします。
- アルコールと刺激物の制限:辛い食べ物、酸っぱい飲み物、炭酸飲料などは胃粘膜を刺激するため避けるようにします。
3.禁煙
喫煙は胃粘膜の修復を妨げるだけでなく、胃がんリスクを大幅に高めます。完全にやめることが重要です。
4.ストレス管理
ストレスが胃酸の分泌を乱すことが知られているため、適度な運動や趣味を取り入れ、リラックスできる時間を持つことが効果的です。
5.定期的な検査の実施
萎縮性胃炎や腸上皮化生がある場合、年に1回の内視鏡検査を受けることで、胃がんの早期発見につなげることができます。
慢性胃炎は適切な治療と生活習慣の見直しによってコントロール可能な病気です。気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診し、胃の健康を守るための具体的なアプローチを始めましょう。